世界の食卓ストーリー

ジョージアの食卓:ハチャプリに隠された多様性と「なぜ」

Tags: ジョージア料理, ハチャプリ, 食文化, 多様性, パン, チーズ

地理と歴史が育んだジョージアの豊かな食文化

肥沃な大地と多様な景観を持つ国、ジョージア。この地は古くからアジアとヨーロッパを結ぶ交通の要衝であり、多くの文化が交錯してきました。その影響は食卓にも色濃く表れており、豊かな自然の恵みと歴史が織りなす独自の食文化が形成されています。

ジョージア料理と聞いて、近年日本でも知られるようになったニンニクとクリームのソースで鶏肉を煮込んだシュクメルリや、ジューシーな肉汁あふれるヒンカリ(肉まんのような料理)を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、ジョージアの食卓に欠かせない存在であり、その多様性が特に際立っているのが、チーズパン「ハチャプリ」です。

ハチャプリとは何か、そして「なぜ」それほど多様なのか

ハチャプリは、文字通り「チーズのパン」を意味し、ジョージアのソウルフードとも言える存在です。生地の中にチーズを詰めて焼いたシンプルな料理ですが、その形、使われるチーズ、そして食べ方には地域によって驚くほどのバリエーションがあります。

この多様性の背景には、ジョージアの複雑な歴史と地理が深く関わっています。ジョージアは小さな国ながら、地形が変化に富み、地域ごとに独自の文化や伝統が育まれてきました。また、ペルシャ、オスマン帝国、ロシアなど、様々な大国の影響を受けてきた歴史も、食文化の多様性を生む要因の一つと考えられます。小麦を使ったパン文化と、畜産が盛んな地域での乳製品(特にチーズ)の利用が結びつき、各地で特色あるハチャプリが生まれたのです。

地域ごとのハチャプリとその背景

ジョージアには数えきれないほどのハチャプリがありますが、特に有名なものをいくつかご紹介しましょう。

これらの他にも、串に巻き付けて焼く「オセティ・ハチャプリ」、生地を何層にも重ねて作る「ペノヴァニ・ハチャプリ」など、各地に様々なハチャプリが存在します。それぞれのハチャプリは、その地域の人々の生活様式や利用できる食材、歴史的な背景と深く結びついており、単なる食べ物としてだけでなく、地域のアイデンティティや絆を象徴する存在となっています。

家庭でジョージアの味を楽しむヒント

ジョージアを訪れるのが一番ですが、自宅でも気軽にハチャプリ風の味を楽しむことができます。本格的なジョージアチーズの入手は難しい場合が多いですが、身近な材料で代用可能です。

簡単な生地を作るには、市販のピザ生地を利用したり、強力粉とイースト、塩、水、少量の油でシンプルなパン生地を捏ねたりする方法があります。

詰めるチーズは、ジョージアチーズの塩味と酸味、そして溶けやすさを再現するために、モッツァレラチーズをベースに、フェタチーズやカッテージチーズ、リコッタチーズなどを混ぜ合わせるのがおすすめです。例えば、モッツァレラチーズ(ピザ用)に、塩抜きしたフェタチーズを少量加えるだけでも、本場の風味に近づきます。

焼き方は、生地にチーズを詰めて成形し、オーブンシートを敷いた天板に乗せて、200℃程度に予熱したオーブンでチーズが溶けて生地に焼き色がつくまで焼けば完成です。アジャルリ風にしたい場合は、舟形にしてチーズを詰め、焼きあがる直前に中央に卵を割り落とし、卵白が白くなるまで少し焼いてから、熱々のうちにバターを乗せてください。

輸入食材店やオンラインストアでは、ジョージアワインやその他のジョージア食材を入手できる場合もありますので、合わせて楽しんでみるのも良いでしょう。

ハチャプリが語るジョージアの食の奥深さ

ジョージアのハチャプリは、その見た目や味わいの多様性だけでなく、それぞれの地域に根差した歴史や文化、「なぜ」その形や食べ方になったのかという背景を知ることで、より深くその魅力を感じることができます。ハチャプリ一つをとっても、ジョージアという国の豊かな食文化の奥深さが垣間見えるのです。ぜひ、ご家庭でジョージアの味に触れ、その背景に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。