世界の食卓ストーリー

なぜラオスではラープともち米(カオニャオ)を食べるのか?歴史と文化が育んだソウルフード

Tags: ラオス料理, ラープ, カオニャオ, もち米, 東南アジア料理, 食文化

ラオスの食卓を語る上で、決して外せない二つの料理があります。それは「ラープ」と「カオニャオ」。ラープは、挽き肉や魚介にハーブと調味料を加えて和えた、いわば「肉や魚のサラダ」。そしてカオニャオは、文字通りもち米です。多くの米食文化圏ではインディカ米のようなパラパラしたお米が主食とされますが、ラオスでは粘り気の強いもち米が圧倒的な主役です。肉や魚のサラダともち米を組み合わせるという、このユニークな食習慣は一体どのように生まれたのでしょうか。

なぜカオニャオ(もち米)が主食なのか

ラオスを含むメコン川流域の上流部では、古くからもち米の栽培が盛んでした。この地域の気候や土壌がもち米の栽培に適していたこと、そしてインディカ米よりも収穫量が多く、比較的短い期間で育つという品種の特性が、もち米を主要な穀物として定着させたと考えられています。

また、もち米はインディカ米に比べて腹持ちが良く、持ち運びにも便利です。かつて、ラオスの人々は移動しながら生活したり、畑仕事や狩猟に出かけたりすることが多くありました。そんな生活スタイルの中で、冷めても固くなりにくく、手でまとめて携帯しやすいもち米は、非常に実用的だったのです。現在でも、ラオスではカオニャオを手で丸めておかずに付けながら食べるのが一般的なスタイルです。手で食べる文化と、手にくっつきにくいもち米の性質も、互いに影響し合って食習慣を形成してきたと言えるでしょう。

歴史的な視点では、ラオスはかつてランサーン王国として栄え、タイ東北部(イサーン地方)や中国雲南省の一部とも強い文化的繋がりを持っていました。これらの地域もまた、現在でももち米を主食とする文化が根強く残っています。こうした広範なもち米文化圏の一部として、ラオスもその食の伝統を築いてきたと考えられます。

なぜラープがラオスのソウルフードなのか

一方のラープは、ラオスの「国民食」とも言える存在です。タイ東北部のイサーン地方でもラープは食べられますが、ラオスがその発祥の地であるとも言われています。ラープという言葉は、ラオス語で「幸運」や「繁栄」を意味するとも言われており、お祝いの席などでも欠かせない料理です。

ラープの基本的な作り方は、生のまま、または火を通した挽き肉(鶏肉、豚肉、牛肉、鴨肉など)や魚、内臓などを細かく刻み、ナンプラー(魚醤)、ライム汁、唐辛子、そして生のハーブ類(ミント、パクチー、ネギ、コリアンダーなど)と混ぜ合わせるというものです。さらに、煎って砕いたもち米(カオクア)を加えるのが特徴で、これが香ばしさと独特の食感を与えます。

ラープに多用される生のハーブは、暑い気候の中で食欲を増進させたり、消化を助けたりする効果があると考えられています。また、かつて冷蔵技術が発達していなかった時代には、肉や魚を新鮮なうちに手早く調理し、ハーブで風味付けして食べるという知恵でもあったかもしれません。地域によっては、新鮮な肉や魚を使った「生ラープ」も存在しますが、衛生管理が難しいため、近年では火を通したラープが一般的になっています。

ラープともち米の組み合わせは、栄養バランスの点でも理にかなっています。カオニャオは炭水化物の供給源であり、ラープはタンパク質とビタミン、ミネラルを豊富に含みます。この二つを一緒に食べることで、ラオスの人々は日々の活動に必要なエネルギーと栄養を効率的に摂取してきたのです。

家庭でラオスの食卓を体験するヒント

ラオスのラープとカオニャオを家庭で楽しむことは、意外と難しくありません。

カオニャオは、もち米を事前に水に浸しておけば、炊飯器のもち米モードや、蒸し器で手軽に炊くことができます。伝統的な竹籠がなくても大丈夫です。炊きあがったもち米は乾燥しないように蓋つきの容器などに入れて保温しておくと、温かく美味しくいただけます。

ラープは、鶏ひき肉や豚ひき肉を使えば、比較的簡単です。 必要な材料は、挽き肉、ナンプラー、ライム汁(またはレモン汁)、唐辛子(粉末または生)、そして様々なハーブ類です。ハーブは、ミント、パクチー、ネギ、エシャロットなどが使われますが、手に入りやすいものだけでも十分美味しく作れます。ポイントとなるカオクア(煎りもち米粉)は、アジア食材店やオンラインストアで入手可能です。もし手に入らなければ、生のままのもち米をフライパンで焦がさないように弱火でじっくり炒り、ミルやすり鉢で粗く砕けば自家製カオクアが作れます。

ラープ作りの簡単な流れ

  1. 挽き肉をフライパンで加熱し、火が通ったら余分な脂を切ります。
  2. ボウルに移し、ナンプラー、ライム汁、唐辛子を加えて混ぜます。
  3. 刻んだハーブ類とカオクアを加えてよく和えます。
  4. 味見をして、塩気(ナンプラー)、酸味(ライム汁)、辛さをお好みで調整します。

付け合わせには、生野菜(キャベツ、レタス、キュウリ、インゲンなど)を添えると、より本格的なラオスの食卓になります。ラープとカオニャオを少しずつ手に取り、野菜と一緒に味わってみてください。

まとめ

ラオスのラープとカオニャオは、単なる美味しい料理というだけでなく、この国の地理、歴史、そして人々の暮らしに深く根ざした文化そのものです。もち米が主食となった理由、そしてラープが幸運を呼ぶ料理として愛される背景を知ることで、ラオスの食卓が持つ豊かな意味合いが見えてきます。ぜひ、ご家庭でもこれらの料理に挑戦し、ラオスの食文化の一端に触れてみてはいかがでしょうか。ユニークな食習慣の背景を知ることは、新たな料理のインスピレーションにも繋がるかもしれません。