なぜモンゴルではホーショールを食べるのか?:遊牧文化が育んだ揚げ肉まんの秘密
モンゴルの広大な大地を訪れると、肉を中心とした力強い食文化に出会います。その中でも、多くのモンゴル人にとってソウルフードとして親しまれているのが「ホーショール」です。日本の揚げ餃子やミートパイにも似た料理ですが、なぜこの揚げ肉まんがモンゴルの食卓に欠かせない存在となったのでしょうか。その背景には、厳しい自然環境と深く結びついた遊牧民の知恵と歴史が息づいています。
広大な大地と遊牧生活が生んだ食の知恵
モンゴルは国土の大部分が草原や砂漠に覆われ、古くから人々は家畜と共に移動しながら生活する遊牧のスタイルを続けてきました。この独特のライフスタイルは、食料事情に大きな影響を与えています。
まず、広大な土地を移動するため、農耕は限られた地域でしか行われていませんでした。そのため、穀物や野菜の摂取は少なく、食の中心は家畜、特に羊や牛、馬、ラクダなどの肉や乳製品となりました。厳しい冬を越すため、また栄養を効率よく摂取するために、肉は非常に重要な食料源だったのです。
さらに、移動生活においては、保存性の高い食料が不可欠です。冷蔵庫がない時代、肉を長期保存するためには、乾燥させたり、加工したりする技術が発達しました。例えば、干し肉(ボルツ)は、モンゴル帝国の時代から兵士たちの携行食としても重宝されてきた伝統的な保存食です。
ホーショールが生まれた「なぜ?」
このような環境の中で、なぜホーショールのような揚げ肉まんが生まれたのでしょうか。その理由をいくつか探ってみましょう。
一つは、肉を無駄なく、美味しく食べるための知恵です。ホーショールの主な具材は、細かく刻んだ羊肉や牛肉に玉ねぎ、塩、胡椒といったシンプルなものです。これらの具材を小麦粉で作った皮で包み、油で揚げることで、肉の旨味を閉じ込めつつ、満足感のある一品となります。
また、保存性もホーショールが生まれた理由の一つと考えられます。揚げ物であるホーショールは、茹でた料理などに比べて水分が少なく、ある程度の時間は常温での保存が可能でした。特に、移動の際や屋外での作業中など、すぐに食事の準備ができない状況で、手軽に持ち運べて栄養補給ができる携行食としても機能した可能性があります。
さらに、冬場の貴重な栄養源としての役割も大きかったでしょう。厳しく長いモンゴルの冬は、新鮮な食料の入手が困難になります。秋のうちに家畜を屠り、その肉を保存・加工して冬を越すのが伝統的なスタイルです。ホーショールは、冬に備えて蓄えられた肉を美味しく消費し、体を温め、必要なエネルギーを補給するための重要な料理だったと考えられます。油で揚げることで、カロリーが高く、寒い環境での活動に適した料理となるのです。
そして、ホーショールはおもてなしの料理としても欠かせません。家庭を訪れた客人に、揚げたてのホーショールを振る舞うことは、モンゴルにおける温かい歓迎の証とされています。手軽に作れて、多くの人に提供できる点も、集団生活やゲストを迎える文化の中で重宝された理由でしょう。
ホーショールの作り方と家庭での楽しみ方
ホーショールは、小麦粉を水で練って作った少し厚めの皮で、刻んだ肉と玉ねぎを包み、油で揚げて作ります。形は半月型や丸型など様々ですが、日本の餃子よりも大きめに作られることが多いです。熱々の揚げたてを手で持って食べるのが一般的です。
家庭でホーショール風の料理を楽しむなら、いくつか簡単な方法があります。
- 皮の代用: 市販の餃子の皮や春巻きの皮を使うことができます。餃子の皮を使う場合は、少し厚手のものを選ぶか、2枚重ねて使うと本場に近い食感になります。春巻きの皮の場合は、具を包んでから四角く揚げるスタイルでも良いでしょう。
- 具材: 本場では羊肉を使うことが多いですが、手に入りにくい場合は合い挽き肉や牛肉、豚肉でも美味しく作れます。玉ねぎをたっぷり入れるのがポイントです。味付けは塩と黒胡椒だけでも十分ですが、お好みでニンニクや少量の醤油などを加えても良いでしょう。
- 調理法: 本格的には油で揚げますが、家庭で手軽に作る場合は、フライパンに多めの油を熱して「揚げ焼き」にするのがおすすめです。油の処理が簡単で、カリッとした食感に仕上がります。
シンプルな材料ながら、遊牧文化と厳しい自然環境の中で育まれたホーショール。その一つ一つに、モンゴルの人々の生活の知恵と歴史が詰まっています。ぜひ、ご家庭でモンゴルの風を感じながら、ホーショール風の一皿を試してみてはいかがでしょうか。